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バリウムで20Kを超える大気圧超伝導転移温度の創出に成功― 大気圧下における単一元素の超伝導転移温度の世界記録を大幅更新 ―

更新日:2024.01.16

バリウムで20Kを超える大気圧超伝導転移温度の創出に成功

― 大気圧下における単一元素の超伝導転移温度の世界記録を大幅更新 ―

九州工業大学と福岡大学の研究グループ(研究代表者:九州工業大学大学院工学研究院 教授 美藤正樹)は、アルカリ土類金属元素のバリウム(Ba)にせん断ひずみを大量に導入することにより、常圧下において超伝導転移温度の記録を大幅に更新することに成功しました。これは、本来高圧縮場でのみ安定な結晶構造を、大気圧下で安定化させることができたことによります。これより、せん断ひずみを用いた超伝導材料の研究開発が注目され、線材開発への研究が一層促進されることが期待されます。

ポイント

  • 高圧力下でしか超伝導体にならないBaを大気圧下で超伝導にすることに成功
  • 大量のせん断ひずみ導入によって、応力を抜いた後でも超伝導を示す高圧相が残存する
  • この残存した高圧相は静水圧縮場で実現される構造に比べてひずんでおり、これまでにない高い超伝導転移温度が発現する


超伝導材料を実用化する上で、線材にできるかが足彩app哪个是正规的になります。その際、電子の波動関数の重なりをマクロスケールで実現する必要があります。現在では、銅酸化物超伝導体でも線材化に成功していますが、単一元素で高い超伝導転移温度(High-Tc)を有する超伝導を実現することは、波動関数が球対称で空間的な重なりが実現され易いメリットを生かせることになり、線材化が容易な超伝導材料の開発につながります。これまで、大気圧下で超伝導になる温度(超伝導転移温度Tc)は、単一金属ではNbの9.2Kが最高であります。合金系となるとNbTi (Tc = 9.8 K), Nb3Sn (Tc = 18 K), Nb3Ge (Tc = 23 K)といった超伝導線材が知られており、いずれも実用化されています。実際、NbのTcを超える単一元素の超伝導は、高圧力下で実現されていますが、大気圧下に戻せば超伝導体ではなくなります。

我々の研究グループでは、大気圧下で超伝導になる単一金属のReにおいて、加圧しながらねじり変形を加えて “せん断ひずみ”を導入することで、構造を変調させて超伝導をより安定化させることに成功していました。今回、我々は、元々、大気圧下で超伝導にならない単一金属のBaに、この“せん断ひずみ”を大量導入する手法を適用し、圧力解放後もHigh-Tcの超伝導状態を保持することに成功しました。

研究対象としたBaは原子番号56のアルカリ土類金属に属する単一元素金属です。室温で5 GPaの静水圧力を印加すると、第I相から第II相への構造相転移があり、12GPa付近で第IV相に構造相転移し、18GPa付近でTcが5Kにまで上昇することが分かっていました。また、低温の10Kで12GPa以上の圧力を印加すると、超伝導状態により適した第VI相に構造相転移して超伝導の発現が見られ、30GPa付近でTcは8Kまで到達することが分かっていました。つまり、高圧下では超伝導に適した結晶構造相があり、Tcを高くしたければ低温で圧力を印加した方が良いということになります。

今回、我々は室温で6GPaの高圧を印加しながら、“せん断ひずみ”を導入し、圧力解放後も第II相を安定化させ、Tc= 3Kの超伝導発現に成功しました。超伝導の検証は大気圧下で行っており、“せん断ひずみ”導入前は超伝導でなかった金属を、“せん断ひずみ”導入後にはTc= 3Kの超伝導体に変化させたことになり、新規物質を機械的に合成したと見なすことが出来ます。また、100Kで最大24GPaまで印加した状態で“せん断ひずみ”を導入することで、最高でTc= 24Kの超伝導状態を実現することに成功しました。これは、Baの第VI相を常圧下でも存在させたことが原因です。静水圧縮下での最高Tcである8Kを、その3倍の24Kにまで上昇させることが出来た原因はまだ詳しく解明できていませんが、静水圧縮下での第VI相よりもひずんだ状態が実現しており、“せん断ひずみ”導入による対称性の低下が鍵を握っているはずだと睨んでおります。



単一元素の静水圧力を用いた超伝導探索は既に調べつくされているところですが、本研究は等方的に応力を印加する静水圧縮より、加圧しながら回転させる(すなわち、圧縮を伴いながら“せん断ひずみ”を導入する)手法がHigh-Tc超伝導創出に有益であることを実験的に明らかにしたことになります。本手法は、単一元素系の新規物性創出にとどまらず、合金系や化合物系にも適応できるものであり、その波及効果は大きく、新しい超伝導材料の合成方法を提案するものであり、低炭素社会の実現に貢献する新技術として大いに期待されます。

本研究成果は1月16日PM 7:00(英国ロンドン時間1月16日AM10:00)、Nature誌の姉妹誌である「Scientific Reports」に掲載されました。


■ 研究概要

超伝導材料は、永久電流*1や磁場排斥効果*2などをもたらし、その利用で社会構造を変革する可能性を秘めている。しかし、大気圧下で超伝導状態を実現するには超伝導を示す試料を冷却することが必要であり、用途が限定されることになっている。また、超伝導の実用化を促進させるには線材化が必要不可欠であり、変形強度や延性といった力学的特性が求められることになり、線材化が可能な物質群は限定されてしまう。

元素周期律表には118種の元素があり、その内の4分の1が温度を下げると超伝導体になり、それ以外に5分の1が低温静水圧縮*3下で超伝導体になる。大気圧下での単一金属超伝導体の最高超伝導転移温度はNbの9.2Kであり、線材化等への応用にブレイクスルーを期待することは難しい。

熱力学第一法則*4によると、状態を変化させるには、熱によるエネルギーの授受か、仕事によりエネルギーの授受が必要である。今回、我々は高圧力下で安定な結晶構造相を研究対象にすることから、高圧印加と回転を同時に施す高圧ねじり加工*5と呼ばれる巨大ひずみ加工*6プロセスで“仕事(ひずみ)によるエネルギー注入”を採用した。そこでは、高圧相を安定化させるだけでなく、転位と呼ばれる線状の構造欠陥(いわゆるひずみ)を蓄積し、圧力解放後も高圧相を大気圧下で安定させることができた。本手法は、Baのように低温高圧力下で超伝導体になる元素に適応できる手法であり、大きな波及効果が期待できる。

今回は、元々大気圧下では超伝導を示さないBaに、超伝導を示してよい6GPa*7以上の高圧力を印加した状態で回転を加え“せん断ひずみ*8”を大量に導入することで、圧力解放後も超伝導組織を残存させることに成功した。“せん断ひずみ”は高圧相の残存に効果を及ぼすだけでなく、単位胞レベルの結晶構造をひずませ、静水圧縮場では実現されない構造を実現する役割を果たした。結果的に、従来の静水圧縮場の最高値である8Kの3倍になる24Kの超伝導転移温度を実現するに至った。これまで超伝導状態の安定化において敬遠されてきた“せん断ひずみ”を、超伝導状態創出と高温超伝導発現に利用するものであり、革新的で新規性を有する研究であり、合金系?化合物系の超伝導状態発現に展開することもでき、多大な波及効果が期待できる。


■ 用語解説


*1永久電流:電気抵抗が生じないことから、電流が半永久的に流れ続ける現象。
*2 磁場排斥効果:磁気シールド効果とも言われ、超伝導体の表面に電流が流れることで、外部磁界と反対向きに磁束が生じ、超伝導体内部の磁場がゼロになること。
*3 静水圧縮: 試料を圧力伝達媒体中に配置し、試料に等方的に応力を印加する圧縮形態。ひずみテンソルにおいては、対角成分しか許容しない。
*4 熱力学第一法則:内部エネルギーの変化が、外部から供給される熱エネルギーと仕事の和になるというエネルギー保存則。
*5 高圧ねじり加工:巨大ひずみ加工法の一つで、高圧下で大量ひずみの導入が可能となる。材料工学の分野では普及している手法で、材料組織の超微細化による材料の機械的特性強化や水素貯蔵特性向上などをもたらす。難加工性材料への適用も可能とする特徴を有している。
*6 巨大ひずみ加工:大量の結晶格子欠陥(ひずみ)を変形?加工で導入し、物質の内部エネルギー高めるプロセス。バルク状試料では組織の超微細化とともに、異種の粉末試料より固化成形や合成も可能となる。
*7 GPa:圧力の単位であり、大気圧が0.1MPaであることから、1GPaは1万気圧に相当する。
*8 せん断ひずみ:圧縮しながら回転を加えることで、ひずみテンソルに対角成分だけでなく、非対角成分を作り出す圧縮?変形形態。転位と呼ばれる線状の構造欠陥の蓄積に有効だけでなく、単位胞レベルの格子変形も誘起する。


■ 論文の詳細情報


タイトル “Superconductivity of barium with highest transition temperatures in metallic materials at ambient pressure”
著者名 Masaki Mito1, Hiroki Tsuji1, Takayuki Tajiri2, Kazuma Nakamura1, Yongpeng Tang1, and Zenji Horita
所 属 1 Graduate School of Engineering, Kyushu Institute of Technology, Kitakyushu 804-8550, Japan
2 Faculty of Science, Fukuoka University, Fukuoka 814-0180, Japan
雑 誌 Scientific Reports
D O I 10.1038/s41598-023-50940-5

※ 本研究は、九州工業大学 研究力強化事業、ならびにJSPS科研費JP23H01126の助成を受けて行われました。



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 国立大学法人九州工業大学大学院工学研究院 教授
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